プロフィール

2017年4月11日火曜日

人物

ある地方長官が新しい
任地に赴いたが、仕事のことは
ゆったりした大人型の人物と
忠実に働いて仕事のよくできる
人物の二人に任せっきりで、
本人は一向に何もしない。

そこで"今度の長官は
変わり者だ"とみんなが
噂し合っておったところが、
一年経ち二年経つうちにその地方が
実によく治まってきた。

それに気付いた民衆が今度は
"長官は本当に偉い人だ、
ああいう人が至れる人と
いうのだろう。
あの人のすることは
「之を日計すれば足らず、
 歳計すれば餘りあり」"
と言って感心し始めた。

つまり一日一日の
勘定では赤字だが、
一年中の総決算をすれば
ちゃんと黒字になっている
と言うのであります。

そして民衆が集まって
この長官を表彰しようという
相談が持ち上がった。

これを聞いた長官は
甚だおもしろくないといった顔で
"俺ももう少しできた人間かと
思っていたら、民衆の目に
つくようではまだまだ俺もだめだ"
と言ったというのであります。

民衆から褒められたり
立てられたりするうちはだめで、
居るのか居ないのか
わからないが、その人が居れば
それだけでみんなが落ち着く、
問題が起こらない、
そういう人間が一番至れる人だ、
という考え方であります。

われわれの一生も、
大体は日計すれば足らずで、
何事によらず赤字と思われますが、
しかし、いよいよ老いて
生涯を省みて黒字だとなれば、
これは道に合った
成功の人生ということになります。

反対に一日一日きびきび
やってきたつもりだが、
さて死にがけになって
"一体俺は何をしてきたのだろうか"
というような大赤字になったのでは
これは失敗の人生であります。

 ──安岡正篤(東洋思想家)



『人物を修める』(安岡正篤・著)より


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押忍!

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